痴漢抑止バッジの狙い
痴漢被害にあわない
痴漢加害者を生まない
冤罪被害者もつくらない
痴漢被害にあっているのは、あなた1人ではありません。痴漢にあってから勇気を出して声を出すのではなく、被害にあわないためにバッジを活用してください。
「缶バッジを付けるだけで、本当に痴漢が防げるの?」と思われる方がいらっしゃるかもしれません。
モニターの声
事実、考案者は初期の手作りカードや痴漢抑止バッジを付けるようになってから、電車内で痴漢被害には1度も遭っていません。
また、2016年3月〜12月まで7ヶ月間、浦和麗明高等学校のご協力で、埼京線で通学している女子高校生70名に痴漢抑止バッジを使用してもらいました。その結果94.3%が効果を実感しています。
グラフにある「変化なし」は、「もともと痴漢にあっていない」という回答のカウントです。「効果がないと思う」というのは、バッジをつけていて痴漢にあってしまったわけではなく「友達がそう言っていた」という意見でした。
専門家の意見
2015年11月のプロジェクト発足当時、メディアから多数の取材を受けました。その中で、専門家にご意見を伺ってくださった番組もあります。
埼玉県鉄道警察隊の副隊長からは
・よく考えられた取り組みですばらしい!
・発案した勇気を讃えたい!
・抑止効果はかなりあるだろう。
・犯人も警戒して思いとどまるのでは?
とコメントをいただいております。(NHK シブ5時 2015年11月5日 放送)
精神科医で、性障害専門医療センター代表理事の福井裕輝先生からは、
痴漢加害者は、
・強く抵抗しないのは(痴漢されても)構わないと思っているからだ。
・本当に嫌ならば、意思表示するはずだ
といった認知の歪みを持っており、
・痴漢抑止バッジは、(嫌だと言う)意思表示になるため、加害者はその人物を避けると考える。
とコメントをいただいています。(NHK あさイチ 2015年11月19日放送)
2019年より痴漢抑止バッジプロジェクトのアドバイザーを務めてくださっている斉藤章佳先生から、ご寄稿いただきました。併せてご覧ください。
私は、2019年4月までに2000人を超える性犯罪加害者の治療に関わってきました。 その内、800名の痴漢加害者の認知の歪みをヒアリングした調査から述べると、彼らは女子中高生を主に狙いますが、単に制服を好きだからというわけではありません。制服という記号が従順の象徴だからです。
治療中の方たちに「こういうバッジをつけている人をどう認識するか?」と尋ねたところ、多くの人が「たぶん痴漢をしない」と答えました。彼らは痴漢行為を許してくれそうな人を探しています。そもそも「痴漢は犯罪です」「私たちは泣き寝入りしません」と意志表示している人を避けるという認知のパターンができているわけです。
痴漢抑止バッジは、これまで手段が見つからなかった「初めての痴漢」を思いとどまらせる効果があります。考案者手記
平成27年11月2日
殿岡たか子
高校に入学して電車通学するようになってから、痴漢に遭うようになりました。私は見た目も地味で、特別目を引くようなタイプではありません。それなのに、なぜ自分がこんな目に遭わなければならないのか、今でもわかりません。高校の友人に聞いても、私のように頻繁に痴漢に遭う人がいなくて、自分と周りとの違いは何なのか、なぜ自分がこんなに狙われるのか、どうしたら狙われなくなるのか、ずっと考えていました。
防犯ブザーや、「痴漢です」と音の出るマスコットを持ち歩いたり、同学年の男子生徒に頼んで一緒に帰ってもらったり、様々な工夫をしましたが、どれも効果がなかったり、続けるのが難しいものでした。もうどうすればいいかわかりませんでした。
初めて痴漢に遭ったのは、高校に入学してすぐのことでした。まだ電車通学に慣れていなかった頃、ホームの端の女性専用車に乗らずに普通車両に乗ってしまい、見知らぬ男性にお尻を触られました。車内は満員で、どうする事も出来ずに泣き寝入りしました。最初の頃は、本当にショックで、学校に着くと担任の先生に泣きついてしまう事もありました。
下校時は女性専用車がないので、痴漢に遭うことが多かったです。私をドアに押し付け逃げ道をなくし、降りるはずだった駅を過ぎて知らない場所まで連れて行かれたこともありました。その時はパニック状態で、降りた駅の名前も覚えていません。よく家まで帰れたと思います。そのほかにも、両手でつり革を持ち周囲に気づかれないように股間を押し付けてくる人。やめてくださいと言っても知らん顔で、両手を上げているので周りも無反応。こういうタイプは対処の仕方がわかりません。
そうして一年が過ぎ、段々声を上げられるようになりました。それでも無視するか、「やってないよ!」と言って逃げていく人ばかりでした。これではらちが明かない、今度は勇気を出して痴漢を捕まえてみようと思いました。そして忘れもしない、バッジを作るきっかけとなった事件が起こりました。
この事件をきっかけに、本格的に痴漢を防ぐ方法を考え始めました。
そうして母と考案したのが、「痴漢は犯罪です。私は泣き寝入りしません」と書いたカードです。こういうものをつけるのは恥ずかしい、と人に思われるとは思いましたが、私自身は恥ずかしくありませんでした。
ここまですれば痴漢してくる奴はいないだろう、という自信があったからです。むしろこの程度で痴漢が止むなら安いものだ、と思いました。
カードをつけはじめてからは、嘘のように痴漢に遭わなくなりました。
見知らぬ人にカードについて声をかけられることもありました。「頑張ってね」と応援してくれた人や、「気を付けてくださいね」と心配してくれた人。もちろん、その逆のパターンもありました。下校中に、同じ学校の生徒が、「痴漢する方も相手を選ぶよな」と背後で話しているのが聞こえました。これはいつか絶対に言われると覚悟していました。自分でもそう思うかもしれない、と思ったからです。
でも、実際に言われると傷つきました。「狙われてなければつけなくていいのに」と思いました。
そうして、デザインを変えようという話になりました。缶バッジにして、少し見た目を良くしました。デザインを変えることで効果が薄れるかもしれないと不安でしたが、今のところ痴漢には遭っていません。
母がSNSに投稿した事で、このバッジは大きなプロジェクトになりました。正直、大ごとになりすぎて驚いています。このバッジが世間に受け入れられるとは思っていませんでしたし、今も不安です。
でも、たくさんの大人が協力して真剣に打ち込んでいるところを目の当たりにして、それだけの価値があると思えましたし、嬉しかったです。
このバッジが世の中に広がり、少しでも痴漢の被害者を減らせるよう願っています。
当センターは、痴漢被害に遭いやすい人に「痴漢抑止バッジをつけて身を守りなさい」と言いたいわけではありません。電車・バスなどで多発する痴漢犯罪に対する社会全体の意識を変えていきたいと考えています。
そのために、毎年夏に学生を対象とした「痴漢抑止バッジデザインコンテスト」を開催しています。コンテストは、第8回(2022年)より警察庁・文部科学省・国土交通省の後援をいただいております。
コンセプト
学生を対象にした理由は、3つあります。
1つ目は、バッジのターゲットユーザーと同世代のデザイナーに参加していただき、10代の子たちの感性にあうデザインを考えてもらいたいからです。毎年、デザインコンテスト参加者の3割〜4割が男子です。
2つ目として、学校の先生方にこの活動を知っていただき、授業で痴漢抑止バッジデザインを取り上げ、学生たちの性犯罪に対する意識改革を行ってほしいと思ったからです。
2015年にクラウドソーシングでデザインを公募した際に、多くのデザイナーが「痴漢問題について改めて考え、調べた」といってくださいました。
大学、専門学校、高校でデザインを学ぶ学生達、実際に被害にあう世代の人たちが、男女ともに痴漢犯罪について考える機会を持つことは、ジェンダー意識の高いデザイナーを育てる一助になるだろうと考えています。
3つ目として、保護者をはじめとした大人達への波及効果を狙っています。学生が痴漢抑止バッジデザインコンテストに参加すれば、保護者の方達も「自分の子供がこういったコンテストに参加している」と痴漢問題に関心を持ち、世代を超えて話題が広がるでしょう。
審査
一次審査は大学生が参加し、応募作品を60点までに絞ってもらっています。二次審査は中学校、高校の協力を得て、生徒のみなさんに気に入った作品を選んでいただきます。
投票数を参考に、コンテスト委員会で入賞12作品を決定。最終審査はWEBと商業施設内のギャラリーに展示され、一般投票を募ります。。閉じた空間ではなく、多くの方にコンテストに参加していただき、電車内バスなど公共交通機関内の痴漢犯罪について考えて一緒に考えてもらう機会としています。
性犯罪のない社会を目指して
今、デザインを学んでいる学生は、将来、社会に出てデザインで情報発信をする立場になります。発信する側の人たちが、痴漢犯罪やジェンダーに関して高い意識を持っていれば、これからの世の中の考え方に影響を与えていくだろうと私たちは期待しています。
2016年の夏には「うな子」という、鰻の産地をアピールするために鰻を擬人化した水着の女の子を養殖する動画があり、賛否両論が起こりました。「駅乃みちかさん」問題では、元々の東京メトロのキャラクターを萌えキャラにし、制服のスカートが不自然な描かれ方をして批判を集めました。
他にもこれまでに、キャラクターやデザイン上の性的表現で批判の声がおきたケースは多数あります。このような表現の場には、必ずデザイナーが関わっています。もちろん、デザイナーに全ての責任があるわけではありませんが、表現に関わる人たちが学生時代に少しでも痴漢問題やジェンダー問題などについて学ぶ機会があれば、さまざまな面で少しずつ社会が変わっていくことでしょう。
そうした思いがあり、痴漢抑止バッジデザインコンテストは、学校と連携して開催していきたいと考えています。学生にとっても、同じ年頃の子達が被害者であるだけに当事者意識を持って取り組めるでしょう。
ターゲットとテーマが明確であり、バッジのサイズも適当な大きさで「課題として取り上げやすい」と参加してくださった先生から好評をいただいています。入賞したバッジは製品化して販売されます。就職活動時のポートフォリオに記載できますので、学生にとってもコンテストに参加するメリットもあります。
過去のコンテスト